可愛いなんて大嫌い。
「そうなの!? 危なかったわ。あなたは……1年生かしら?」

「はい。今日入部しました神田葵といいます」

 先輩に対しては一応礼儀正しい奴である。

「葵ちゃんね。あなた料理はよくするの?」

「毎日家事やってるんで料理もしますよ」

 母親を早くに亡くし父子家庭で育った葵は、父親に代わって毎日家事をやっている。

 7つ上の兄もいるが、今は結婚して家庭もあるので家を出て独立している。

 見かけによらず、葵は結構苦労人なのだ。

「ちょうどよかったわ。シュークリームに入れるカスタードがうまく出来ないの。ちょっと見てくれるかしら?」

 と言われたので作りかけの鍋を見ると、そこは散々なことになっていた。

 原型をとどめていない謎の物体は辺りに飛び散り、鍋は焦げつき、爆発の後みたいである。

(……これは最早、うまく出来る出来ないの問題ではないぞ)

「まっ、まずこれを片付けましょう。話はそれからです」

「そうね」

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