%コード・イエロー%
ぎゅっと瞳を閉じると、仲地の低い声が、なおさら強く、私の鼓膜を揺すった。
「あ、外科の仲地ですけど、今、受付って混んでますか?」
相手の声は、音としては聞こえたけれど、なんと返事をしているかまではわからない。
「そうですか。
じゃあ、申し訳ないんですけど、受付事務の藤崎さんを、ちょっと借りてもいいかな?
学会に使うカルテを用意してほしくて。
ええ。今、仮眠室の前で偶然会ったから」
仲地の言葉の意味を理解できず、私が、顔を上げると、彼の瞳とぶつかった。
それさえも予想していたかのように、仲地は、また一歩私に近づくと、
私が髪の毛を一つに束ねていたゴムを、片手で下に引っ張り落とした。
髪の毛をするりと抜けて、黒いかわいげのないゴムが、ぽとりと床に落ちる。
「ええ。ありがとう。じゃあ、ちょっと借りますので。
もしも混んだら、私のPHSを鳴らして下さい。カルテ庫にいますから。
はい、それじゃあ」
仲地の長い指先が、ボタンを押すと、通話は切れて無音の世界が広がる。
「時間が、できたな」
仲地の声が、ダイレクトに私の脳を突き刺した。