%コード・イエロー%

男性は、ちっ、と舌打ちをしただけで、追おうとはしなかった。

私にとっては、そのほうが好都合だ。


助けてくれたのはありがたいけど、揉め事はごめんだ。

警察に言っても、オヤジが反省するとは限らない。下手に逆恨みされたら怖い。


周囲の人間だって見てごらん。

私がこうやって、あきらかに具合が悪そうなのに、皆、見ないふりで通り過ぎていく。


そういう私も、たぶん同じ。

誰かが、助けを求めていても、きっと手なんか貸さないんだろう。


もしも、手を貸すとしたら、よほどの理由があるか、もしくは・・・。


男性は、私を傍のベンチまで連れて行って、座らせてくれた。


「すみません」


痴漢から助けてくれたお礼と、今、自分を支えてくれているお礼。

二つの意味を込めた。


「大丈夫ですか?具合が悪いの?それとも気分かな?」


「両方です。でも、具合悪いのは、薬飲んでるから平気です」


「でも、かなり顔色が悪いですよ。出勤途中かな?

仕事休んだ方がいいんじゃない?」


「・・・面倒かけて、すみませんでした」


休めるような職場なら、最初から休んでる。

余計なお世話だ。


助けてくれたことも忘れて、私は、早くこの男がどこかへ行ってくれないかと祈った。






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