%コード・イエロー%

ざわつく待合室を前にして、私たちのテンションは下がる一方だ。


「先生は、何も言わなかったんですか?」


いくら救急車で来たからって、そんな人の優先度を上げるなんて間違ってる。


「今日は、担当が鈴木だからね。なんでも患者の言う通りほいほい、だよ。

まったく、情けない。これが、大谷あたりだったら、おもしろかったんだけどね」


大谷っていうのは、指導医の女医だ。

前に私が、覚えとけ、ってすごまれた医者。

彼女は、女性患者、特に若い患者に対しては、氷のように冷たい。


あはは、と私は苦笑した。


「さっきのバイク事故は手術ですか?」


里佳子のお母さんが、ここにいる時点で多分答えは一つなんだろうけど。


「だめだったよ。連絡入った時点でCPAだったから」


大橋さん、と彼女を呼ぶ別の看護師の声がして、里佳子のお母さんは、小走りで診察室へ戻っていった。


CPAというのは、心肺停止状態のことを指す。

事故現場ですでにそうなっていた場合、搬送されても助からないケースがほとんどだ。

病院では、死亡確認が行われるだけだ。






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