%コード・イエロー%

つまり今回の場合、患者さんの訴えをもっとよくきいた上で、

内科的疾患の可能性を考慮し、内科と耳鼻科、両方にかかるべきだったのだ。

けれど、それは後になってこうすればよかったという過程の話で、時間はまき戻らない。

そう、結果として、患者さんは亡くなったのだ。


「確かに私はただの受付だけど、大森さんが愚痴っているのを耳にしたんだよ。

生あくびが出るのは危険だって知ってたのに、全然気づかなかった」


病気について正式に学んだわけではなくても、何年も病院で働いていれば、

危険な兆候の話を耳にすることも当然ある。

血液検査のこの値が高ければ危険、とか、この病気にこの薬は禁忌だ、とかだ。


大森は、おそらく自分の仕事に少しばかり余裕を感じ始めていたのだろう。

このくらいなら、先輩に尋ねなくても自分の判断で大丈夫、と。

そしてそれは、大概の場合間違いではない。


里佳子は、着替え終わると私の肩に手を置いた。


「仕方がないよ。今回は、たまたま運が悪かったんだから」


「運が悪かったら人が死んでもいいってことなのっ!」


狭い天井に、私の大きな声が反射して一面に広がっていく。

近くで着替えていた何人かが、いぶかしげに私のほうを振り向いた。


「ごめん、里佳子」


予想以上に頭に血が上っている。

感情のままに里佳子を怒鳴るなんて、普段の私ならありえないことだ。




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