%コード・イエロー%
いつもの駅に着いたのは、夕方の7時を回る頃だった。
・・よし、帰るか!
なんとなく一新した心持ちで、歩き始める。
会社帰りのサラリーマンがせっせと家路に向かうのだろう。
今頃、父もこんな風に一人寂しく我が家へと歩いているのかもしれない。
覚えず笑みがこぼれたとき、小脇に抱える鞄の中から携帯の振動を感じた。
『お父さん』
・・うそっ! お父さんからだ!
携帯に光る“お父さん”の文字を見て慌てた私は、開いたままの鞄から、中身をばらばらと零してしまった。
しわの入ったハンカチ、薄汚れた化粧ポーチ、まったいらなお財布。
恥ずかしくて必死にかき集めていると、キャッシュカード大のものが財布の下にあった。
病院のIDカード。
すでに退職扱いになっているものの、制服をクリーニングに出してロッカーの鍵なんかと一緒に返すことになっているので、まだ私の手元にある。
それを拾って土ぼこりを払うと、そっと鞄のポケットにしまいこむ。
もう、二度と使うことはない。
携帯の振動はとっくの昔にやんでいたが、私は中身を確認するため二つ折りのそれを開いた。