%コード・イエロー%

あいかわらず、人の気配がしないところだ。


『カルテ庫』


入り口に、わからないほど小さなプレートが掲げられていなければ、

ただの物置き場にしか見えない。

いくつもの棚に並んだカルテを見て、私は唇を噛み締めた。


ここは、名前の通り、患者さんのカルテを保管してある場所だ。

カルテは、診療から5年以上たつと、廃棄処分されることになっていて、

ここには、廃棄を待つだけの過去1~3年のカルテが置かれている。


診療から4~5年経過した古いカルテは、別の倉庫に保管されており、ここにはない。

逆に、1年以内に診察したものは、機械で自動的に取り出せるような仕組みになっていて、

やはり別の場所に保管されている。


私は、入念に、棚の一つ一つをチェックしていく。

前回、当直があったときに調べたところから、まだ見ていない方へと、

少しずつ、体をずらしながら。


当直の人間は、ときどきこうしてカルテ庫に入ることがある。

普段は、カルテ庫を管理している専任の人間がいるのだが、

夜間帯に急遽、古いカルテが必要になったときは、当直の人間がとりに来ることになっていて、

私がここにいても、おかしくない状況が整っている。


もちろん、カルテを必要としているのは、他の誰でもない、私。

なのだが。




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