%コード・イエロー%
「誰か、いるのか?」
フロアに響く、その声は。
・・永井君じゃ、ない!
低く通る声は、どこかで聞いたことのあるような、ないような。
でも、冷たいそれは、少し温かみのある永井君の声でないことだけは、はっきりした。
それにしても。
私は、今日の当直のメンバーを頭に浮かべる。
こんな声の持ち主が、どうも思い当たらない。
ということは。
ひょっとして、ごまかせるかもしれない。
当直以外の誰かが、ここに入ってきたのなら、私と鉢合わせしても、怪しまれることはない。
私は、当直の人間で、ここにいても少しもおかしくはないのだから。
ほんの少し見えた希望に、私はすがりついた。
心の中で、何度も言い訳を考える。
“Q外に来た患者様が、2年前にここで手術を受けたことがあるそうで、
その記録を探しています”
返事をしない私を探すように、足音の主は、こちらへと距離を縮める。
私は、はっとして棚に手をやり、いかにもカルテを探しているように、装った。
「藤崎さん」
まさか、自分の名前を呼ばれるなんてことは、想像もしてなくて、私の体はびくんと跳ねた。