准教授 高野先生の結婚
もともと心配性の私には修羅場なんてとても考えられなかった。
間に合わなかったらどうなるの?
学位取得できなかったら?
就職は?結婚は?どうなっちゃう???
そんな不安に責め立てられ、私はアリさんのようにコツコツ作業をすすめていたのだ。
ちなみに、同期の真中君はようやくお尻に火がついて最近メリメリ始めたところ。
もっとも、真中君は私と違って瞬発力や集中力に長けているから大丈夫なのだろう。
キリギリスとは言わないけど、典型的なイササカ先生タイプの真中君。
そして、イササカ先生タイプの代名詞といえば指導教授の並木先生。
「詩織ちゃん、明日は並木先生と何時のお約束?」
「んとね、16時半。先生は講義があってね、それが終わってからだから」
明日、私は並木先生に論文の仕上がりを見ていただく約束になっている。
寛行さんは、ふーむと何やら思案しているようだった。
「そっか、夕方か……」
「あのね、ちゃんと並木先生にOKもらえたら、帰りにおうちに行ってもいい?」
「そうだねぇ……そうだ!うん、迎えにいくよ、僕が。そうだ、そうしよう」
「うん!」
このとき――
るんるん気分の私はぜんぜん気づいていなかったのである。
寛行さんの“お迎え”に潜んだ企みに……。