准教授 高野先生の結婚

翌日の夕方。

私は指導教授である並木先生の研究室をたずねた。

おそらく年内最後の論文指導を受ける為に。

「うん。前に指摘したところも今度はちゃんと書けてるね。出していいよ」

「本当ですか!よかった……」

「年内に出せる子なんて久しぶりだ。まったく優秀な学生を持って僕は誇らしいね」

「先生のおかげです」

「反面教師?」

「えっ!そんなっ!」

並木先生がちょっと私をからかうようにハハハと笑う。

「なにせ僕はギリギリにならないと書けないほうだからね。君とは真逆のタイプだ」

「私は先生のように瞬発力がないので。こつこつやるほかないだけです」

「君のそういう根気強さはすごくいいね。だから惜しい気もするんだけどね」

「そんな……」

大学に残るか否か、博士課程に進むか否か。

私は修士でおしまいの選択をした。

その選択は色んな意味で正しかったと思う。

だって――

「まぁでもね、鈴木さんは研究者になるには真面目すぎるし優しすぎるから」

私は研究者には向いてないから。

それは自他ともに認める現実だから。

だから並木先生も――

生真面目さを誉めてはくれても、博士課程への進学を勧めてきたりはしなかった。

見込みのありそうな学生には声をかけていたそうだけど、私にはぜんぜん……。

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