准教授 高野先生の結婚
大学教員は皆、“研究者”と“教員”の二足の草鞋(わらじ)を履いている。
けれども――
中には、完全に教員という草鞋を脱ぎ捨てて研究だけに没頭しているような人もいる。
或いは、研究も教育も疎かにして、政治や趣味に夢中になってる人もいる。
では、並木先生は?
先生は二足のわらじを巧みに履きこなす賢者というか猛者というか……。
並木先生は尊敬すべき研究者だと思う。
同時に、学生に心から信頼され敬愛される先生だ、と。
だから――
「君は文学研究なんぞからは足を洗って、まっとうな仕事に就くほうがあってるよ」
「そう思います、自分でも」
先生の言葉を素直に受け取ることが出来る。
学生の将来を案じた“先生”の助言として。
私の資質について、確かな目を持つ“研究者”が見極めをした結果として。
「じゃ、論文の話はこれでおしまいね」
「ハイ!ありがとうございましたっ!」
私はテーブルの上の原稿を持って喜々として立ち上がった。
やっと開放された!
大手を振って寛行さんちに行ける!
ところが――
「んじゃ、飲みに行こうか」
「え゛っ」