准教授 高野先生の結婚

お座敷では一足先に到着した“私の彼氏”が一人でお行儀良く待っていた。

「先生、お忙しいところ急なお願いをいたしまして……本当に申し訳ありません」

「いいのいいの。僕こそいつも高野君には色々と面倒ばかりかけてるからね」

むむむむむ、これはまさに知らぬは私ばかりという……。

「えーと。あのですね、先生方ちょーっとよろしいですか?」

「あら?そういえば鈴木さんはまだ連れてきたことなかったっけ?この店」

うぉっ……。

並木先生の問いかけに思わずどきり。

だってここは――

“高野先生”が初めての休日デートで連れてきてくれたお店だから。

だけど――

「は、はいっ!初めてです!」

ウソをついた……。

いや、もし言葉が足りないのはウソにはならないというならウソじゃあない。

なにしろ“並木先生に連れてきてもらうのは”初めてだもの、本当に。

「そうかそうか。じゃあ、やっぱりここにしてよかったなぁ。うんうん」

満足そうな笑顔の並木先生にひとまず安堵。

そして――

密かに笑いをこらえる寛行さんの表情を私はもちろん見逃さなかった。

むぅぅ、他人事みたいに一人でおもしろがっちゃって……!
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