准教授 高野先生の結婚

エプロンというのは我ながらよいリクエストだったと思う。

“これからは家の中のことも頑張るね”という、ささやかな私の決意表明。

彼はきっと、ちゃんとわかってくれたはず。

嬉しくってエプロンを手に取りしげしげと眺めていると――

あれ?なんだろう?

ポケットの一つが膨らんでいることに気がついた。

中に手を入れてみると――

「あっ、これ……」

それは――

「絶対に必要になるだろうと思って」

「うん。ありがとう……うん、本当に」

“高野”の姓の印鑑が4本。

普通の大きさのハンコと小っさい訂正印。

彫ったハンコとシャチハタがそれぞれ1本ずつ。

きっと職場でも使えるようにと気を利かせて用意してくれたに違いない。

「君は姓が変わるから色々と変更手続きが必要になるけど……免許証とか通帳とか」

「うん」

「まあ……その、なんというか……面倒かけるけどよろしく頼みます」

こういうときに照れてしまう彼ってすごくいいなって思う。

ますます好きになっちゃうな、って……。

そうして私は――

「もちろん、よろしく頼まれます!」

はにかんだ彼の笑顔を愛おしく思いながら、改めて彼の苗字になることを約束した。
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