准教授 高野先生の結婚
こうして会うのは久しぶりで、私たちはお茶を飲みながら少し話すことにした。
「で、どうなの?修論のほうは?」
「なんとかなりそうかなぁ。ダミー作戦は発動せずにすみそうだよ、とりあえず」
“ダミー作戦”とは未完成の論文をとりあえずカタチだけ提出する裏技のこと。
卒論や修論は期限内に教務課へ提出して受領控えをもらうシステムになっている。
そして、受付期間内に提出できなければ留年決定。
それはどんな理由があろうと決して例外は認められない厳しい規則なのである。
しかしながら、教務課の職員が受付けの際に中身をチェックするはずもなく……。
極端な話、表紙があってなんとなく体裁が整っていれば真ん中のほうは白紙でも可。
まるでドラマに出てくるインチキな身代金のような。
一枚目だけが本物のお札で、あとはざら紙ばかりの偽の札束みたいなものだ。
まあ、そんなわけで――
要は“出した”という事実が教務課で記録されればOK!
あとで教務課から指導教授へ渡ったダミーをモノホンと差し替えればヨシ!と。
ただし、この作戦には当然ながら指導教授の了承が必須なわけだけど。
「並木先生はダミー作戦でもいいって言ったんだけどさ」
「そうなの?」
「あぁ。けど、ボクは断固頑張るって言い張ったわけ」
「おおーっ」
「だってさ、高野サンに合わせる顔がないじゃん?」
「真中君……」