准教授 高野先生の結婚

女性だけでなく男性からの好感度も抜群の桜庭さん。

真中君はそんな桜庭さんをまるでお笑い芸人のように“兄サン”と慕っている。

そして、私はと言うと――

「“シオリン”はもう提出したんだって?さっき海津サンから聞いたけど」

今ではもう“シオリン”と呼ばれ、すっかり桜庭さんの妹分としておさまっている。

「まだ口頭試問が残ってますけど、一応」

「“一応”だろ?通るのは確実なんだし。だから、おめでとう。お疲れさん」

「ありがとうございます」

桜庭さんは彼氏がいない先輩方の憧れの王子様。

その王子様の近くでいつもちょろちょろしている私。

それでもお姉様方は私に嫉妬なんぞしない。

何故なら――

だって、彼女たちから見れば“妹認定”された私は可哀想なコだから。

桜庭さんに女として見てもらえないコ、恋愛対象から外れてしまったコ。

もちろん、彼女たちがそう思うように仕向けたのは桜庭さんに違いない。

私が先輩方からやっかまれてネチネチいぢわるされないように、と。

おかげで“可哀想なコ認定”された私は研究室内で心穏やかにすごすことができた。

それでも、桜庭さん狙いで私に取り入ろうと近づいてくる人への対応には苦慮しているけど……。

桜庭さんには本当にいつもお世話になってばかりいる。

以前、私は桜庭さんに想いを告げられ、それをお断りした経緯があるわけだけど……。

それでもぎくしゃくすることもなく、こうして先輩後輩としてよい関係が築けている。

それは、桜庭さんの器の大きさと懐の深さに他ならない。

けど、桜庭さん本人は「“高野サン”のせいだ」と言う。

桜庭さんに告白されたとき、私は付き合っている人がいることは伝えたけれど、それが誰かは言わなかった。

桜庭さんは桜庭さんで、聞きたそうではあったけど、しつこく聞き出そうとしなかったし(そこは桜庭さんの上品さだと思う)。

でも、私と真中君と桜庭さんと三人で過ごす中で、桜庭さんにだけ黙っているのが心苦しくなって……。

私の中で、桜庭さんは尊敬できる先輩というだけでなく、信頼できる年上のよき友人のようになっていたから。

だから、わりと早い段階で寛行さんのことを打ち明けた。

桜庭さんはもちろん驚いたけれど、それはほんの一瞬で、そのあとは「それじゃあ仕方がないな」と爽やかに笑った。

相手が高野サンじゃあ仕方がない、と。

潔く身を引くしかないね、と。

それはきっと上下関係で先輩を立てるとか、そういうことじゃないのだと思った。

うまく言えないけど――桜庭さんが“高野サン”を男として敵わないと認めた……みたいな?

それ以来、私と真中君と桜庭さんの関係はいっそう親しくなり今に至る。



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