准教授 高野先生の結婚
食事のあと、寛行さんは皆と一緒にY大に向かうことになった。
並木先生からのお願いで真中君の論文をちょこっと見てあげることになったのだ。
そして、私は展覧会を見る予定を変更して再び自宅へ戻ることに。
あんなに晴れていたのに、いつの間にやら今はどんより曇り空。
洗濯物を干してきたのに、夕方までもつかどうかあやしいもんだ。
そんなわけで、私は大学へ向かう三人を駐車場まで送って別れることにした。
別れ際、寛行さんは私に向かって――
「“鈴木さん”」
お得意のいかにも先生っぽい口ぶりで――
「飲み過ぎないように気をつけて下さい。おうちに帰るまでが忘年会ですよ」
などと……くれぐれも節度ある行動を取るようにと戒めた。
「“高野先生”こそ、トナカイに轢かれないようにお気をつけあそばせ」
「ご忠告ありがとう。あ、“へべれけ”になるその前にちゃんと連絡なさいよ」
「なりませんから」
「“へべれけ”になって自力で帰宅困難な場合は僕が回収に行きますから」
むむ、この人は……おもしろがって、“へべれけ”を連発しているな!?
「それはどうも。でも心配無用ですから」
「そうですかぁ?けど、本当に“へべれけ”になりそうなときは……」
「だ・か・ら!“へべれけ”になんてならないって言ってるじゃないですか!」
先生や友人の前にもかかわらず、ついついアホなやりとりをする彼と私。
「まあまあ、シオリン。もし“へべれけ”になったらボクが連絡したげるよ」
「もう!真中君!」
「“へべれけ”になったシオリンかぁ……うーん、けっこう見てみたいかも」
「桜庭さんっ!」
「鈴木さん、今夜は飲まされて“へべれけ”になるのを覚悟しとくことだね」
「うぅぅ、並木先生まで……」
いじける私を見て愉快そうに皆が笑う。
今夜はわざわざイヴに設定された、恋人たちには傍迷惑な忘年会。
空はますますどんより曇り、静かに雪の気配を漂わせていた。