准教授 高野先生の結婚
だって――
お母さんの大事な思い出の着物だもの。
私にとっても大事でないわけないじゃない。
だからこそ、ずっと長く着られたらって。
でも――
「チッチッチッ。しーちゃん、貴女ってば、なーんにもわかってないのねーん」
“チッチッチッ”って……。
マンガやアニメ以外で実際にこんな仕草する人、初めて見たし……。
っていうか、それが自分の母親って……軽くショック?みたいな……。
「私がわかってないって?何を?何が?」
「振袖の柄は華やかすぎて訪問着には向かないのよ」
「え゛っ!そうなの?ホントに?」
「“ハイ、確かに。一般的に訪問着には上品で落ち着いた柄が用いられます。ですから振袖の柄は華やかすぎて訪問着には適さないのです”」
「う゛っ。いきなり“トリビア”みたいな喋りになってるし……」
それにしても――
袖の部分をちょいちょいと直せば着続けられると思っていた私って……。
あぁ、なんて無知な、世間知らずな……。
そして、さらに新事実が発覚。
「あの着物は柄あわせの関係で七五三用には仕立て替えできないって言われたのよ」
「え?そうだったの?それで――」
「しーちゃんが二十歳になるまでとっておいたの。もし気に入ってくれたらってね」
「そっか……」
「だからこれが本当に最後。そういうわけだから……着るわよね?」
「……着る」
「ファイナルアンサー?」
「……ファイナルアンサー」