准教授 高野先生の結婚

彼は臆面もなく“こっ恥ずかしいこと”を言う。

その……私のことを“綺麗”とか、“可愛い”とか……。

そういうことを何でもなーい顔をして、さらりと言ってのけちゃうのだ。

無論、私が本当に綺麗かどうかという客観的事実はともかくとして……。

それでも――

こんな私を綺麗だの可愛いだのと心から誉め愛でてくれる。

ほんっと、なんていうか……寛行さんは根っからのマニアックな御仁というか。

彼の台詞がお世辞のつもりじゃないってことがわかるから、だから私は――

「信用しないもん。寛行さんの目は節穴だと思いマス」

嬉しすぎて恥ずかしすぎて照れまくりで。

いつだって、ついつい照れ隠しに憎まれ口を叩いてしまう。

そんなしょーもない私の扱いにすっかり慣れている寛行さん。

「節穴よばわりとはひどいなぁ。ちゃんと客観的に見て評価してるつもりだよ」

私の失礼発言に気分を害することもなく、余裕たっぷりのこの笑顔。

うぅ、すべてを見透かされていることが、嬉しくもあり、悔しくもあり……。

ハンドルを握る彼の横顔はゆったりにこにこ上機嫌。

私はまたよせばいいのに可愛くない発言を繰り返す。

「だって……絶対アレだもん。ほら、あの、えと、えとえと……」

「彼氏の欲目?」

「そう!それデスよ」

「まったく本当に疑り深いなぁ、ウチの詩織ちゃんは」

「ウ……疑り深いとは何ですか、もう!」

“ウチの詩織ちゃん”なんて、そんなこと言われたらもう……。

運転中でもおかまいなしに、くんくんしたくなっちゃうじゃない!
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