准教授 高野先生の結婚

カスガイはテーブルの上に開いたメニューを眺めたまま顔を上げずにこう言った。

「んだばアレだ、アタシもスズキのこと“タカノ”って呼ばなきゃなんだ?」

「ええーっ!」

「“ええーっ!”じゃない」

「だってぇ……」

おっとっとっと……自分のことなんて考えてもみなかったけれど、確かに。

うーん、でも……。

「えーと、私はそのまま“スズキ”って呼んでもらっても……」

「いいのかえ?」

「かまわないよ、ぜんぜん」

カスガイに“タカノ”って呼ばれるのって、ものすごーく違和感アリアリだもん。

ずぇーったいに慣れないというか、しっくりこなそうというか。

「んだばさ、別にスズキもアタシのことカスガイって呼んでたらいいのでは?」

「そ、それは……」

まあ、そういう理屈になるのはわかる。

「何か?問題あるかえ?」

「いや……でもね、コータローに悪いかなって、失礼かなって、ちょっと……」

正直あんまりよくわからないのだけど……。

でも、旦那さん的にはあまりいい気はしないのかな?って。

同じ姓になったはずの自分の奥さんが旧姓のまま呼ばれ続けるなんて。
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