准教授 高野先生の結婚

森岡先生がオススメというそのお店は、比較的最近できた話題の人気店。

それでも、私たちが行ったときは席に余裕もあったし店内はわりと落ち着いていた。

まあ今日は平日だし、夕飯時のピークもちょっと過ぎていたし。


「ここ、かき揚げが旨いんだってさ」

「そうなんだ?天ぷら、種類多いね」

「バナナなんてのもあるよ?」

「えっ!あ、ほんとだ!食べたい!」

「じゃあ、うどんはシンプルなかけうどんにして、天ぷらを何種類か注文しよう」

「うん!」


……あ、あれ???

なんか、けっこうフツーに喋れてる?

おうちで二人きりのご飯のときは、なんだか気詰まりな感じがあったのに……。

久しぶりの外ご飯は、とっても美味しくて。

そして、思いがけず和やかで。

お腹だけでなく心までも温かく満たしてくれた。


帰り道、お店の駐車場を出るとすぐ――


「ちょっと寄り道するから」

「う、うん」


彼は行き先も告げずに、何処かへ向かって車を走らせた。


うーん、お店と違って車の中では、やっぱりちょっと気まずいかも……。


それにしても――

寄るのがコンビニならコンビニって言うんだけどなぁ、いつもなら。

今日の彼は何を考えているのかさっぱりわからない。

はっ!ま、まさか!美味しいものを食べさせて?油断させておいて?実は……!?

これから人里離れた山奥に連れていかれて、置き去りに!?

……なんてことは、さすがにないとして。

それにしたって、彼の心の内がまったく読めず困惑。

かといって、この状況から逃れることもできず、密かに彼の表情を窺うも――


うぅぅ。フツーだし、ぜんぜん……。


その横顔から何らの意図も読みとることはできず。

私はおとなしく彼の車で何処とも知らぬ場所へ運ばれるしかなかった。
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