准教授 高野先生の結婚
眼を閉じて腕で顔を覆ったままじゃあ彼の顔は見えやしない。
だけど、たとえ顔が見えなくとも、私にはまるまるまるっと、ぜんぜんわかった。
彼がほんの一瞬驚いたことも、そして今、すごく照れていることも。
けれども――
そう、何しろ私の彼はものすごーく衝撃に強い人だから……。
「つけないよ、キスマークなんて」
「えっ」
彼は、私の顔からひょいと腕を軽くのけると、唇にさらっと素早くキスをした。
今度は私がやや驚いて、目をぱちくり。
思いがけないキスも驚きだけど、“つけないよ”と言い放たれて、なおびっくり。
そして彼は淡々と私に向かってこう言った。
「だって、内出血なんだよ」
この人はまた、こういうことを言う……。
「それは、まあ……」
「吸引性皮下出血なんだから」
「もう、そうやって……私、なんて言ったらいいかわかんないじゃないですか」
彼の正しいけれど?トンチンカンな言い分に私は負けを認めて失笑した。
悔しいけれど、私は彼のこういうところがとってもとっても大好きだ。