准教授 高野先生の結婚

眼を閉じて腕で顔を覆ったままじゃあ彼の顔は見えやしない。

だけど、たとえ顔が見えなくとも、私にはまるまるまるっと、ぜんぜんわかった。

彼がほんの一瞬驚いたことも、そして今、すごく照れていることも。

けれども――

そう、何しろ私の彼はものすごーく衝撃に強い人だから……。

「つけないよ、キスマークなんて」

「えっ」

彼は、私の顔からひょいと腕を軽くのけると、唇にさらっと素早くキスをした。

今度は私がやや驚いて、目をぱちくり。

思いがけないキスも驚きだけど、“つけないよ”と言い放たれて、なおびっくり。

そして彼は淡々と私に向かってこう言った。

「だって、内出血なんだよ」

この人はまた、こういうことを言う……。

「それは、まあ……」

「吸引性皮下出血なんだから」

「もう、そうやって……私、なんて言ったらいいかわかんないじゃないですか」

彼の正しいけれど?トンチンカンな言い分に私は負けを認めて失笑した。

悔しいけれど、私は彼のこういうところがとってもとっても大好きだ。


< 26 / 339 >

この作品をシェア

pagetop