准教授 高野先生の結婚
12.金木犀が香る頃には
忙しくしているうちに、2月はあれよあれよと過ぎていき、気づけばもう3月。
まあ、実際に2月は他の月より日数が少ないんだし早いのは当たり前かもだけど……。
ちょっと曇り空の日曜日。
私は寛行さんと一緒に彼の実家を訪れていた。
彼のご両親に会うのは1月の両家の顔合わせのとき以来。
「しーちゃん、いらっしゃーい!」
「よく来たね。さあ、あがってあがって」
「ありがとうございます」
お母さんとお父さんの温かい歓迎が、心から嬉しくて有難い。
さて――
私たちは本日ある重要なお願いがあって、こうして帰省したのだけど。
「あの、今日はお休みのところをすみません」
「何言ってるのよ♪バッチリ!任せなさい!開運間違いなしのハンコ押すからネ」
「母さん、開運間違いなしのハンコって……また通販でヘンなもの買ったな」
「ヘンなものとは何よ。まーったく、失礼しちゃうわねぇ、この子は」
「父さんも止めてよ、母さんの通販」
「……言って聞くわけないだろうが」
「……」
「ま、まあまあ♪お母さんが開運間違いなしって言うならきっとそうですよ、うん」
「ダメだよ、君はそういうこと言っちゃ。そんな胡散臭いハンコ、僕は押させない」
「んっま~!この息子ときたら!新しい出発に幸運来たれと気ぃつかってるのに!」
「一生に一枚の大事な婚姻届が汚れる」
「ひ、寛行さん!何もそんな言い方っっ」