准教授 高野先生の結婚
彼はいつだって、気取らず、気負わず、気張らずに、さらっとすごいことを言う。
「僕はちゃんと知っているから」
「え?」
「君は、僕だけの君でいてくれるって」
飄々と、淡々と、粛々と……そんな言葉が彼にはとても似合うと思う。
やっぱり彼は思慮深い大人の男の人なのだ。
粋がらず、相手のことをみだりに所有したがらない。
彼は決して私のことを“おまえは俺の女だ”なんて誇示も断定もしたりしない。
ただ、彼は心から望み願ってくれる。
“僕だけの君でいて欲しい”と……。
そして、同じように彼を想い望む私を揺らぐことなく信じてくれる。
「なんか僕、どさくさにまぎれて恥ずかしい台詞言っちゃってるよね」
どさくさって……まあ確かに“どさくさ”と言えばそうかもだけど。
「そんなこと、言っちゃってるかもね」
「そんなぁ、フォロー無し?」
困った顔で情けなさげに笑う彼が可愛くって愛おしい。
だからこそ、可愛さあまって意地悪したくなってしまう。
「申し訳ございません。生憎フォローは出払っておりまして」
「詩織ちゃん……フォローって何者??」
「じゃあ、フォローは完売いたしました」
「“じゃあ”って……今度は売り物?」
「まあまあまあ、いいじゃないですか」
「気になるなぁ」
こんな奇妙なやりとりで楽しく笑い合えるのは、他ならぬ彼とだからに違いない。