准教授 高野先生の結婚
その夜は、特別に外へ食事に出たりはせず、家でまったりすごそうと決めていた。
だからといって、まるっきりいつもどおりの“おうちごはん”というのも味気ない。
そんなわけで、私たちにしては珍しくピザをとって貪る?ことにした。
サラダだけは二人のお気に入りの惣菜屋さんのテイクアウト。
今夜の食卓は、なんだかとってもカラフルで、色鮮やかで賑やか華やか。
「なんか、普段ピザとかあんまりとらないから……はりきりすぎちゃった???」
「さすがにちょっと頼みすぎたかなぁ」
「あぅぅ、何日分のカロリーだろ?私ってばドレス入らなくなっちゃうかも!?」
「まあまあ。無理して食べきらなくても、ラップして冷蔵庫いれたらいいよ」
「あ、そっか」
「そっ。明日あっためて朝ご飯にしたらいいじゃない?ね?」
「うん。でもやっぱり今夜だってちゃんとガツガツ貪らなきゃね」
「はいはい。ほどほどにね」
「むむ!寛行さんも貪るんだよ?」
「それ、“亭主の胃袋をつかむ”って意味を間違っているよ……」
食事をしながら、私たちは今日の出来事をあれこれと語り合った。
「学務課に届け出してきたよ」
「うん。私はね、なんか今日から“高野詩織”で働くことになっちゃった」
「あら、そうなんだ?」
「でね、“今度ダンナさん連れていらっしゃい”とか言われたの」
「それはそれは」
「あ!決して病気になれって話じゃないからね!あくまでも、その――」
「挨拶がてら顔見せにくれば?みたいな話でしょ?大丈夫、理解してるよ」
「ほっ。診療所って“来なくてすむようにね”って場所だから言い方が難しいよぅ」
「なるほどね。それはそうだ」
「“遊びにきてね~”とかヘンでしょ?」
「うん、なんかヘンだね。本来、元気になったら行く用のない場所だからね」
「ね」
「ね」
とりとめのない話をしながらの、彼と私の和やかな食事。
今日は特別な日だけれど、いつもと一緒。
いつもと一緒でも、やっぱり今日は特別。
こういうの……なんか幸せだなって思う。