准教授 高野先生の結婚
本当にこのまま気づいてもらえなかったら……私ってただのアホなんですが!?
本気で不安になったその瞬間――
「あ」
「あ」
顔を上げた彼と目があった。
「ずっとそこにいたの?」
「“うんん!ぜんぜん!アタシも今きたとこだから~”」
「はいはい。気づいてあげられなくてすまなかったね」
「むぅぅ、なんか軽くあしらわれた」
「そんなことはないさ」
「そうかなぁ」
「そっ。ないない」
彼はにっこり笑うと、読みかけと思しき本をパタンを閉じた。
「本、もういいの?」
「うん。それより、いつまでそんなとこにいるつもり?」
「それは……ヒミツです」
ちょっとふざけて、ササッと再び隠れる私。
まるで猫かなにかみたいに、ドアのかげからちょろっと目だけのぞかせる。
彼は徐(おもむろ)に眼鏡を外すと、それを先ほど閉じた本の上に静かに置いた。
そして、穏やかに優しく微笑みながら――
「おいで」
その一言で、私の心を打ち抜いた。
途端に、淡く甘く色づき始める二人の空気。
その空気を逃すまいとするようにドアをしっかり閉めてから嬉し恥ずかし部屋に入る。
とととととっと速足で彼のもとへ歩み寄り、私は素早く隣りにおさまった。
「きたよ」
「うん」
来たよ、私だけの場所に。
世界で一番居心地の良い、私だけの特別の場所。