准教授 高野先生の結婚
よく冷えた烏龍茶のペットボトル(500mlのやつ)が1本。
かわりばんこに喉を潤しながら、ちょっとまったりする二人。
「オイルヒーター、そろそろ買い換えたほうがいいかと思っているんだよ」
「そうなの?普通に使えてるし、ぜんぜん大丈夫っぽいけど?」
男が女に愛の言葉を囁くでもなく……。
女が男にしなだれかかって甘えるでもなく……。
「なにしろ古いからね、かれこれ何年になるんだろ」
「今売ってるやつはすんごく省エネでエコなんでしょ?通販の雑誌で見たもん」
所帯をもった二人の所帯じみた会話……。
っていうか――
こういう間の抜けた、ゆるーくぬるーい感じ、私たちは前からだけど。
「あ……僕、間違えたよ」
「ん?オイルヒーターが何?」
「結婚記念日はいつかって話だよ」
「あー、その話ねー」
……いきなり話題が飛んだり戻ったり。
これって寛行さんと私のでっかい共通点で。
お互いにもう慣れっこなので、話題が飛ぼうが飛ばされようがへっちゃらだ。
「僕、ちょっと考えたのだけど――」
「いつ!?」
ぬくぬくいちゃいちゃしながら!?
ホントはずーっとうわの空だったのお!?
なーんて、突っ込んでみたり。
「ついさっき、一瞬前だよ……ずっと頭の片隅で考えていたとかではない」
「わかってるよ」
悪びれもせずけろりと答える私。
そんな私の頭を、寛行さんがくしゃりと撫でる。
まるで“オトナをからかうもんじゃないよ”と、たしなめるように。
「まったくこの子は」
「んで?」
「そう、で――事実婚の場合は入籍も挙式もなしってケースもあると思うのだよ」
「そうすると……?」
「入籍日が正式な記念日というのは無しで。まあ、つまるところ――」
「???」
「なんというかさ、記念日なんて決めたもん勝ちではないか、と」
「はぁ……」