准教授 高野先生の結婚

そんなこんなで――

翌週に結婚式を控えた今、半強制的に里帰り中の私なのである。

果たして、お父さんは私に“その台詞”を期待しているのだろうか?


「このしっとりしたパンがいいんだよ、フィレオフィッシュは」


目の前で“うまー”とばかりにパクパク食べてるお父さん。

その様子からは、真意なんぞさっぱりわかるわけもなく……。

昨夜だって、お夕飯の後は皆でテレビ見て笑ってバカ話しして終わっちゃったし。

お父さんともお母さんとも“それらしい会話”なんてぜーんぜんなくて。

っていうか――

しない私がダメなんだろ!って話なんだけど……。


ど、どうしようっっ

あんまり時間ないのいぃぃ!


昨日は土曜で寛行さんも仕事があったので、送ってはもらわず私一人で電車で来たけど。

今日の夕方には寛行さんが車でお迎えにくることになってるのだから。



家に戻ってから、私はお母さんに話してみることにした。

お父さんがコンビニに行った今がチャンス。

キッチンで料理の下ごしらえをするお母さん。

私はそろりと近付いて、その隣りに立って話しかけた。


「あのね、お母さん」

「なあにー?」

「えーとね……」

「んー?」

「あのね、お母さんもお嫁に行く前に“あのご挨拶”とかしたの?」

「“あのご挨拶”って?」

「だから……アレだよ、あの……」

「あぁ!あの“長い間お世話になりました。ぺこり~”っていうアレ?」

「そう!そのアレだよ!」


まったく……“あの”だの、“その”だの、“アレ”だの……。


「で、どうだったの???」

「そういえば、私はしなかったわねぇ」

「そうなの?」

「そうよ。だって……」

「だって?何???」

「そうねぇ、やっぱり雰囲気がなかったからっていうのかしら……ねぇ?」

「は?」


もしもし?お母さん?

“ねぇ?”って言われましても……ねぇ?

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