准教授 高野先生の結婚
お父さんとお母さんは幼馴染。
本人同士だけでなく家族同士も旧知の仲という関係。
「“明日はヨロシク”って、ちょっと挨拶がてら寄っただけのはずが……ねぇ?」
「ま、まさか朝まで!?」
「私やお母さんはさすがに次の日の支度もあるし、そこそこに引っ込んだけどね」
「お祖父ちゃんたちだね」
「そうなの。結局ね、務さんが何言って止めようとしても無駄でダメで」
うーむ……お祖父ちゃんたち、二人ともお酒大好きだったからなぁ。
酔っぱらってるときに私が歌うたってあげると、たくさんお小遣いくれたっけなぁ。
さすがに今はトシもトシだし大人しくしているそうだけど。
「その当時は、ただ呆れて“男ってなんでこんなバカなんだろ?”って思ったわー。
ほんっと周りのこととか後先のこととか考えないで飲んじゃうなんて、って。
務さんもトシとったらこんなふうになっちゃうのかしら!?なんて心配したりね」
「で、なった?」
「うんん。ならなかったわね、務さんは」
「お父さん、あんまり飲めないもんね」
「ね」
くすすと笑うお母さん、なんだか楽しそう。
でも――
「今だから……自分が親になったからわかることなんだけど、あの時は――」
なんだか、お母さんの笑顔にちょっぴり淋しさが混じったように見える。
「お父さん、淋しさを紛らわそうとして一生懸命飲んでたのかもしれないな、って」
うつむいて、作業をする手が止まったままのお母さん。
「私ったらね、罰当たりな思い違いをしていたのよ」
「思い違い?」
「そうなの。“私の結婚式なんて、もうそんなに感慨ないのかもなぁ”って」
「なんでそんなふうに思ったの?」
「お姉ちゃんたちがいたし。娘の結婚式も三度目ともなれば、なんて……ねぇ?」
またまたもう、お母さんてば……。
私に“ねぇ?”って言われても……。
「でも、私の結婚式は“娘を嫁に出すのもこれが最後”の結婚式だったのよね。
お父さん、完売御礼のドンチャン騒ぎでもしないとやっていられなかったのよね」
お母さんはしみじみ言うと、気を取り直したように私の顔を見てにっこり笑った。
「やっぱり親として平気なわけがないと思うのよ。
娘がお嫁に行っちゃうのが少しも淋しくないなんてこと、考えられないなって」
お母さん……。
「だって、務さんを見ていたらひしひしと伝わってくるもの」
「えっ」
「嬉しいけど淋しい気持ち。それと――」
「……?」
「ありがたいけど悔しい気持ち、かな」
お父さん……。