准教授 高野先生の結婚
手紙を読み終えた私は、便せんを手に持ったまましばらく固まっていた。
なんというか、自分自身に愕然としてしまって。
ほんっと、私ってしょーもない……。
なんて抜けているのだろう……。
お父さんにアノ言葉を言わなきゃ言わなきゃって、そればっかりで。
お母さんのこと、すっかりすこーんと置き去りにしてた。
思い返せばいつだってそうだった。
お母さんは何でもわかってくれていて、しっかりしていて、大丈夫で……。
私はそれにどっぷり甘えて任せて……。
「詩織ちゃん?」
心配そうにこちらを見つめる寛行さんに、私は無言でお母さんからの手紙を手渡した。
彼は手紙に目を通すと俯いたまま黙って小さく微笑んだ。
そうして、便せんを丁寧に折りたたんで元の状態にして私へ返してよこした。
「電話したら?お母さんに」
「でも……」
無事に帰り着いたという連絡はもう既にメールで済ませていた。
もう一度あらためてお母さんに……。
伝えたい気持ちがある。
伝えなきゃならならい気持ちがある。
だけど、それをうまく言葉に出来る気がしなくて。
すごく照れもあるし。
これはもう、お父さんに気持ちを伝えるよりもずっとずっと難しく思われた。
だけど……。
「ほら、あまり遅くならないうちに。ね?」
「うん……」
彼が背中を押してくれたから。
「さあさあ、ほらほら」
「う、うん。わかったってば」
「“しーちゃんはやれば出来る子だぞー”」
「もう、寛行さんはまたそうやって!」
私は彼にお礼を言うかわりにお得意の頭突きをお見舞いした。