准教授 高野先生の結婚
電話はケータイではなく家のほうへかけることにした。
幾度もかけ慣れた相手なのに、自分のお母さんに電話するのに緊張するなんて。
およそ2コール半、電話にでたお母さんはいつもの明るいお母さんだった。
「はいはーい、もしもーし、どうしたのー?」
「うん……」
えーと、どうしたもこうしたも……。
「あら!何か忘れ物あった???」
「あ、えと、そうじゃなくて」
「そうなの?」
「あの、あのね……」
うぅ、なんか上手く言いだせない……。
ふと背中に視線を感じて振り返ると、寛行さんがじーっとこちらを見つめていた。
だけど、ちょっと気を遣ってくれたのか?
私と目が合うとすぐ「よっこらしょ」っと立ちあがって、寝室のほうへ去っていった。
さて、と……。
「お母さん」
「うん?なーに?」
「お土産……お裁縫箱ありがとう。あと、モモちゃんのことも」
「うっふふー。びっくりした?」
「うん。びっくり、した」
「“入院”っていうか“外来”くらいの治療だったんだけどね。“検査入院”して“外来”で治療って感じかしらね」
“入院”だの“外来”だの……そんな言葉を覚えたのも、お母さんにモモちゃんの手当をお願いしたときだった。
すぐに治る軽傷のときは外来で、ちょっと時間がかかる重症のときは入院。
入院になってしまったときは、子ども心に心配で不安になったものだった。
その頃はまさか自分が“外来”の患者さんの受付をする仕事に就くなんて思ってもみなかったわけだけど。
「モモちゃんのリボン、素敵だね」
「でっしょお?頑張ってお洒落したのよ」
「お母さん」
「ん?」
「……ごめんね」
「しーちゃん?」
「ごめんなさい」