准教授 高野先生の結婚
ずっと、ずっとずっと我慢していたけど、お母さんの声を聞いてしまうとやっぱりダメで……涙で声が上ずった。
「しーちゃんはぁ、いくつになっても泣き虫ねぇ」
その声に、電話の向こうで困ったように笑うお母さんの優しい笑顔を想う。
“あなたって子はもう”と言いながら、いつだって私の心に寄り添い抱きしめてくれたお母さん。
「だっ、て……」
「でもまあね、泣きたいときに泣けることも大事だものね」
「お母さん……」
「こちらのことは心配しないでって手紙にも書いといたでしょお?」
「わかって、る……けど……」
「寛行さんは?近くにいるの?」
「い、ない……」
「そう。しーちゃん、あのね」
「うん……?」
「泣きたいときに思い切り泣かせてくれない男の人はダメよ」
「うん」
「もちろん、女を泣かせるような男はもっとダメ。論外だけどね」
「うん」
「寛行さんは大丈夫ね?」
「うん」
「それなら安心」
「うん」
「明日は仕事でしょ?もう寝なさい」
「うん」
「じゃあ、切るからね」
「うん」
「……」
「……」
「…………しーちゃん」
「うん?」
「電話、ありがとうね。おやすみなさい」