准教授 高野先生の結婚

ずっと、ずっとずっと我慢していたけど、お母さんの声を聞いてしまうとやっぱりダメで……涙で声が上ずった。


「しーちゃんはぁ、いくつになっても泣き虫ねぇ」


その声に、電話の向こうで困ったように笑うお母さんの優しい笑顔を想う。

“あなたって子はもう”と言いながら、いつだって私の心に寄り添い抱きしめてくれたお母さん。


「だっ、て……」

「でもまあね、泣きたいときに泣けることも大事だものね」

「お母さん……」

「こちらのことは心配しないでって手紙にも書いといたでしょお?」

「わかって、る……けど……」

「寛行さんは?近くにいるの?」

「い、ない……」

「そう。しーちゃん、あのね」

「うん……?」

「泣きたいときに思い切り泣かせてくれない男の人はダメよ」

「うん」

「もちろん、女を泣かせるような男はもっとダメ。論外だけどね」

「うん」

「寛行さんは大丈夫ね?」

「うん」

「それなら安心」

「うん」

「明日は仕事でしょ?もう寝なさい」

「うん」

「じゃあ、切るからね」

「うん」

「……」

「……」

「…………しーちゃん」

「うん?」

「電話、ありがとうね。おやすみなさい」

< 309 / 339 >

この作品をシェア

pagetop