准教授 高野先生の結婚

気持ち早口でそう言って電話を切ったお母さん。

その声は気のせいかもしれないけど、ちょっと……涙で震えていた気がした。


お母さん……。


私は部屋の隅っこへ行き、その場にちんまりと座りこんだ。

ずびずびハナをすすりながら、グシグシ涙をぬぐっていると、寛行さんがティッシュの箱を持ってやってきた。


「はいどうぞ」

「うぅ……ありがと」

「電話、終わったの?」

「そんなの、見れば、わかるし……」

「はいはい。失礼しました」


親切にしてもらっているのに悪態をつく私。

そんな可愛くない私に彼は寛大だった。


「お隣、失礼」

「どうぞ、デス……」


そうして私たちは部屋の隅っこにかたまった。


「ときに、泣き虫の詩織さん」

「感じ、悪い……」

「薄い胸板でよければここにもありますが。よろしかったら遠慮なくどうぞ」

「うぅ……」


彼のそういう優しさを好きだと思う。

その優しさがたまらなく好きだ。

私は抱えていたティッシュの箱をわきに置くと、遠慮なくその胸を借りにいった。
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