准教授 高野先生の結婚

照れてる自分がちょっと恥ずかしくて、なんとなく決まり悪くて。


「よし!音楽でも聞こう!うん!」


誰ともなしに宣言して、私はすっくと勢いよく立ちあがった。

まったく、部屋には自分だけなのだから人目を気にする必要などないのに。

だけど、逆に一人きりの静かすぎる部屋というのが、どうにも居心地が悪くて。


「何か適当に……」と、本棚の一画のCDコーナーを見る。

すると、整然とCDたちが並ぶ棚で一枚だけ無造作にポンと置かれたままのものが。

いかにも買ってきたばかりという傷ひとつないピカピカのケース。

なかなかインパクトのあるジャケット。

それは今朝、車の中で彼と一緒に聞いたあのアルバムだった。

もちろん、中身もちゃんと入ってる。

彼がいつでも車で聞けるようにあちらの機械に取り込んで、そのあと持ち帰ってとりあえず置いたのだろう。


音楽を聞くときはランダムに再生するのが好きな私。

いつもの要領でCDをセットする。

ジャケットを眺めながら、どの曲が流れてくるのか耳を澄ませていると――。


あ、この曲って寛行さんが……。


そう、彼がフレンチトーストを焼きながら上機嫌で歌っていた鼻歌。

私が聞いたことはあるのにタイトルを思い出せずにいた曲。


『はじまりはいつも雨』


その曲だった。

剛クンが甘く切なく歌い上げる音楽に、私の心は釘付けになった。

だって、そのメロディーがとてもきれいで優しげだったから。

それに、歌詞が――。

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