准教授 高野先生の結婚
私が抱いているのは、決して裏切られることのない期待。
だから、不安や怖れや疑いなんてこれっぽっちの欠片もない。
ただ、こんな例えすごくヘンかもなのだけど、敢えて言うなら――
なんというか――そう、遊園地のお化け屋敷のような感じ?
ワクワク、ドキドキ、ソワソワ、ビクビク。
今か今か?まだかまだか?
お化けが出ると知った上での期待や緊張。
脅かされて派手に驚いてみたい反面、驚くまいと意地を見せたいとこでもある。
だけど――
わずかに先を歩く彼がつと立ち止まる。
「詩織ちゃん」
「は、はいっ!」
いかにも待ち構えていたような反射的な素早い返事、過剰な反応。
もう、明らかにびくびくしてるし……。
そんな私を愛おしそうに楽しそうに彼が見つめる。
そして、私に向かってにっこり笑ってさっくり一言。
「ハイ、じゃあ今のは練習ね」
「えーっ!?何それ、なんかひどーい!」
乙女?の純情を弄ばれた気がして断固抗議。
「むぅぅ、寛行さんに辱められたぁ」
「ごめんごめん。だって、君があんまり緊張しているみたいだからさ」
「だからって、からかうなんてひどい」
「そんなつもりじゃなかったんだよ」
「じゃあ、どんなつもり?」
「緊張するのは僕だけで十分だから」
「え?」
「君は気楽にしていて大丈夫。まあ、大船に乗ったつもりで、ね?」
彼の困ったような照れた笑顔がたまらなく好きだ。
そんな優しい顔で“大丈夫”なんて微笑まれたらもう……
「なんか、大船に乗る前から船酔いです」
私は嬉しさと恥ずかしさで俯いて、つないだその手をじっと見つめた。