准教授 高野先生の結婚

彼の匂いと温もりは、いつだって私を安心させて夢心地にしてくれる。

それでいて――彼の唇は私の口から言葉を奪い、その指先は理性を容易く奪っていく。

誰より愛しいその人は、私からあっさりすべてを取り去ってしまうのだから。

そう――素肌を覆い隠すものばかりか、本音を包み隠すものもすべて。

もっとも、ニュアンスとしては“取る”というより“はがす”のほうが合っているかも。

とても丁寧でいて容赦のない彼の愛し方。

みだりにみだらに乱されるほど、彼の為に整えられていく素直な体。

その素直さを素直に認めたくなくて。

でも、抗うこともできなくて……。

理性と引き換えに与えられる快楽。

私はそれを享受して、痺れるような甘い刺激に切なく体を震わせた。


「うぅ、私ばっかり……。やっぱりなんか負けた気がする」

「君はまたそういうことを言う」


わざとちょっぴり呆れたように笑う彼の楽しそうなこと……。


「寛行さん」

「なんだろう?」


寝そべる私の足元で地味に“装着”作業する彼に問う。


「男と女って、なんでこういう行為(コト)するんですかね」

「さあねえ。どうしてだろうね」


むむむ、子どものくだらない質問に適当に答えるオトナみたい。

ま、無粋な愚問だってわかっていて聞くほうもあれなんだけど。

私はよいしょと体をおこして、彼のそばへすり寄った。


「子ども作る為ばかりじゃないのは知ってるよ、とりあえず」

「はいはい。よくご存知で」


わりと慎重に避妊なるものをしてきた私たち。

結婚した今でもそれは変わっていなかった。

もちろん、将来的には変わっていくと思うけど。

今のところはとりあえず、今までどおり。

私の気持ちを第一に二人でゆっくり考えていこうと彼が言ってくれたから。


「私だけのものですよ」

「え?」


彼の用意ができたのをしっかり見届けてから、私はふいをついて彼を仰向けに押し倒した。


「寛行さんは、私だけのものなのです」

そうして――手ずから彼のその場所へ触れ、するりと滑らかにつながった。


「ずっと、ずっとずっとです」

「うん」


あぁ、私ったらもう。

こんな恥ずかしいこと言っちゃって、やっちゃって……。

これもみんな結婚式のせいだもん。

結婚式マジックなんだもん。

と、都合よくすべてを結婚式のせいにして、彼の胸にぺったり覆いかぶさってみる。


「あ、重いよね……?」

「いや、ちっとも」


そう言いながら、彼はよっこらしょっと体をおこして私を正面から抱きしめた。


「私、こうしてるの好き」

「うん、僕も」


彼の肌の感触も匂いも体温もすべて、どうしてこんなに気持ちよく馴染むのだろう。

私は夢中になって彼とつながることに没頭した。

加速する情熱に身を任せて。

ときには甘いため息をつき、切なく体をしならせて。

そうして――私たちは優しい安心感に包まれながら、真っ白な幸福で満たされた。
< 335 / 339 >

この作品をシェア

pagetop