准教授 高野先生の結婚
以前、森岡先生の奥さん……美穂さんが言ってたことが咄嗟に私の頭をよぎる。
もし――
美穂さんのお母さんのように彼のご両親が子どもの結婚に壮大な夢をもっていたら?
私なんかじゃとても……その夢を壊してしまうに違いない。
考えれば考えるほど、心の中にどよんどよんと不安の雲が立ち込める。
もちろん、たとえ気に入ってもらえなかったとしても、
今さら彼とのことを諦めるなんて出来るわけがないのだけれど。
「寛行さん、ご両親に私のこと“こんな娘ダメだ”って言われたらどうする?」
助手席のシートベルトに阻まれながらも思い切り体を捻って運転席の彼に迫る。
困り顔の私をよそに、安全運転に従事する彼の横顔はまるで余裕の笑顔だった。
「心配なのは僕のほうだよ」
「えっ」
「いや、だからね、僕の親が君を気に入るかどうかじゃなくて、むしろ――」
「?」
「君が僕の家族を気に入って、というか……許容できるかどうかという……」
「許容!?」
「うーん、決しては悪い人たちじゃないんだよ。ただ、奔放な人たちというか……」
「奔放って……」
悪い人じゃないと聞いても私の不安は拭われず、なんだかさらに困惑した。