准教授 高野先生の結婚
彼は“誰も取って食いやしない”と言うけれど、実際は――
「私なんて、ぺろりと一口なんじゃ……」
「ないってば」
「で、でも……」
「とにかく君が案ずることは何もない」
彼は前を見て10時と2時の定位置にハンドルを持ったまま穏やかに笑った。
「僕の家族が君を気に入るのは、おそらく間違いないだろうからね」
「そうかなぁ……」
「そうだよ」
まったく彼のその自信はいったいどこからくるのやら……。
「それに、君もきっと僕の家族のこと、おもしろいって思ってくれるんじゃないかな。
とりあえず、父親はけっこう常識的な人間だよ。
その他は……ちょっと変わってて愛情表現が過剰かもしれないけど、まあ善良だし」
うーむ……。
いくらそう言われても、まぁだもやっと釈然としないというか、なんというか……。
けれども、今まで彼が“大丈夫”と言って大丈夫じゃなかったことは一度もない。
それに、何と言っても大好きな彼の大切なご家族なのだから。
「むぅぅ、寛行さんがそう言うなら……」
「そっ。大丈夫だいじょうぶ」
「うん……」
とりあえず、今はまだ困ることを想像して困ることはやめにしよう……。
私は問題を保留して、素敵なプロポーズ記念日の続きを楽しむことにしたのだった。