准教授 高野先生の結婚
あんまり熱心に頷く私に、彼は冗談みたいな口調で、だけど本気でこう言った。
「僕が“鈴木寛行”になることもやぶさかではないんだよ?」
「ええっ」
さすがにこの覚悟には……正直、かなりびっくりした。
「君は一人娘だしね。それに僕は男三人兄弟の真ん中で、上も下も結婚してるし。
うちはもともと由緒正しい旧家でもないし、継ぐべき家業があるわけでもないしさ」
「けど……」
「仕事上は“高野”のままで通せるから特に問題ないんだよ。
ほら、けっこう女性の研究者なんかそうしているでしょ?
論文なんかの業績も途中で姓が変わるとなんか色々面倒くさそうだし。
それに、もしも……まぁ、これは可能性は低そうだけど、君のご両親が――
“仕事上も鈴木になれ”なんて言っても、少々面倒だけどかまわないよ、僕は」
「寛行さんに、そんなこと……!」
私は慌てて彼の言葉を打ち消すように掻き消すように、首をぶんぶん横にふった。
つけっ放しのテレビの中では磯野家の皆さんがまあるく仲良くちゃぶ台を囲んでいた。