准教授 高野先生の結婚

おそらく、それは彼氏彼女が贈り合うモノとしては定番中の定番のモノ。

「うわぁ、時計だぁ!」

「えーと、遊び心ありすぎかな?とも思ったんだけどね。でも、いいでしょ?」

「うん、すごくいい!」

お誕生日特典は、文字盤に世界地図がプリントされた腕時計。

30代の男の人が身につける時計の標準なんて私にはさっぱりわからなかった。

でも、彼が絶対にそれを気に入るという確信はあった。

「寛行さんが普段してる時計も素敵だし、すごく気に入ってるのも知ってるけど。

でも、ちょっとカジュアルなのが別に一つあってもいいんじゃないかな、って」

彼が愛用しているのはxC(クロスシー)の腕時計。

中でも彼のは文字盤の数字がローマ数字ではなく普通のアラビア数字のモデル。

私が思うに、彼がモノを選ぶ際の基準は大きく二つ。

まず一つは機能性。

「おおーっ、クロノグラフと24時間時計が搭載なんだね。すごいすごい」

「でしょ、でしょ?」

世界地図柄の文字盤にある3つの小さなサブダイヤルは、まるで世界時計みたい。

そして、彼は機能性も重視するけど同じくらい可愛いモノが好きなのだ。

「機能的にもおもしろいけど、やっぱりデザインがすごくいいね。見ていて楽しい」

「よかったぁ。あっ、もしね、少しゆるいようなら今度一緒にお直しに行こ?」

「うん、ありがとう。ずっと大切にする」

「うん」

心から嬉しそうに大事そうに時計を眺める彼の表情に思わず胸がいっぱいになり――

“こちらこそ、ありがとう”

私はそう心の中で彼にそっとお礼を言った。

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