准教授 高野先生の結婚
5.薬指の約束
寛行さんの安全運転で、弾丸ツアーは次なる目的地へ。
車はいつの間にか県境を越え、ぼちぼち私の実家周辺へ近づきつつあった。
「寛行さん、ウチの玄関の前でアノ台詞言うんでしょお?」
「アノ台詞って?」
「ほら、“たのもーう”ってやつ」
「それじゃあ道場破りだよ……君のご実家はいったい何の道場なの?」
「えー、だってぇー」
わざとだらしない口調で喋り、拗ねているのを露骨にアピール。
「寛行さん、お父さんと“果たし合い”なんでしょお?」
「まだ拘ってるんだね……」
「誰かさんが頑なだからだもん。ケチケチしないで教えてくれたらいいのに」
彼ったら、いくら私がしつこく聞いても白状しようとしないのだもの……。
お父さんに“果たし状がきた!”と言わしめたその手紙の内容を。
「話すほどの内容じゃないからね」
「たいした話じゃないなら、ちょちょーいって教えてくれればいいのに」
「いや、やっぱり最重要機密だから駄目。残念ながら教えられないな」
「むぅぅ。さっきはたいした話じゃないって言ったくせに。ぜんぜん一貫性ないし」
「無くてけっこう」
「今度は開き直ってるし……そういう態度の人は返り討ちにあっちゃうんだからね」
「あらら……君はそんなに果たし合いをさせたいの?お父さんと僕と」
「別にぃー。っていうか、果たし合いになんかならないって知ってるし」