ちっぽけな空
「ただいまー」
 ガラガラとガラスの引き戸を開けて、母は祖父の家に入る。
 ふわりと、線香の香りが鼻先をくすぐった。
 廊下の奥のほうから、聞き慣れたどすどすと歩く音が聞こえてくる。
「よくきたなー。
アサコちゃん暑かっただろ。
よーく冷えたスイカがあるから、ほら上がって、上がって」
 団扇をぱたぱたと扇ぎながら、祖父は、にかっと笑った。
 タバコのヤニで黄色く薄汚れている歯が見え、金歯がきらりと光る。

 私たちはよく冷えたスイカをほおばり、スイカの種飛ばし大会をした。
 夜は花火を見ながら、とうもろこしを食べた。
 その後祖父と母と私の三人で蛍を見に出かけることになった。
 せっかくだからと、浴衣を着て見に行くことになった。
 急だったから私は母が昔着ていた浴衣を着、母は祖母の形見の浴衣を着た。
 祖父は、もともと甚平を着ていたので「このままで行く」と言っていた。

 ゆらゆらと瞬く、幻想的な光。
 蛍はふわりと飛んで、私は思わず息をのんだ。
「こんなに蛍が見れるのは、この辺でもそうそうないよ。
いいときに来たね。アサコちゃん」
 祖父はタバコをふかして、遠いところを見ながらそう言う。
 本当にそのときの蛍はとてもすばらしくて、私は思わずなみだが出そうになった。

< 3 / 4 >

この作品をシェア

pagetop