Sommerliches Doreiek〜ひと夏の恋〜
小さい頃から運動が好きだった。
体育大出身の両親のおかけだか運動神経にも恵まれたオレは、どんなスポーツもできた。
けど――――
「相変わらず拓也はすげぇよな。」
「ああ、やっぱり天才の前ではオレ達の努力なんて"雀の涙"ってやつ?」
最初はどんなスポーツも皆と一緒に楽しくできていた。
でも、実力に差が出始めるとどうしたって違う感情が芽生えはじめる。
「はは、確かに。つか雀の涙って何?雀って涙流すん?」
「いや、そんくらい少ないって言う比喩表現だから……あっ、拓也おつかれ。」
部室に拓也がやってくる。
するとさっきまで拓也の話をしていた部員の表情が引きつっった。
「……おつかれ。」
実力に差が出ると、嫉妬や挫折がどうしても付いてくる。
それを糧に頑張れる子もいれば、ただ愚痴として消化することしかできない子だっている。
どちらも当たり前で、仕方のないことだったけど、それは拓也を深く傷つけていた。
「拓也この後、コンビニ寄って行こうぜ。」
佐野くんのキラースマイルにも拓也の表情は変わらない。
「今日はオレ、パス。次は水曜だよな?」
「ああ、来週は市民大会もあるし頼むな。」
拓也はまた背中越しに手を振った。
拓也自身は気付いていない、機嫌の悪い時とか気分が乗らない時のクセ。
「オレは……オレは才能なんて要らなかった。ただ皆と楽しく身体を動かしたかっただけなのに。」
真っ暗になった街に、拓也の小さな小さなぼやきが吸い込まれていく。
悲しげな、どこかに消えてしまいそうな拓也だけを残して。