Sommerliches Doreiek〜ひと夏の恋〜
帰り道、黙って歩いていると優斗が真剣に喋りだした。
「拓哉ってさ本当に良い奴だよね。」
急な話題。
「いきなりだね。でも……良い奴だよ拓哉は。」
私がそう言うと優斗はいつもみたく笑った。
「僕たちが付き合ってるのを知っても応援してくれて、「琴音を悲しませたらただじゃおかねぇ」ってオーラがびしびし伝わってくるし。」
「はははは。」
「琴音、僕ね。この街にこれてよかった。茂森くんや間先生、クラスの皆。それに大好きな琴音や拓哉に出会えた。」
私の家の前まで来ると、北風が吹いた。
「……やだ。」
私の口から急にそれが飛び出した。
なんか分かんないけど、この北風が優斗を連れて行ってしまう気がしたんだ。
優斗がいつもに増して優しく微笑む。
「さようなら。僕の織姫。」
最後の言葉で私は一瞬にして泣き崩れた。
優斗はゆっくりと去っていく。
ぼろぼろこぼれ落ちる涙で滲んだ瞳で、たった一回。
ほんの一瞬で構わないから優斗が振り返ってくれないか。と願っていた。