Sommerliches Doreiek〜ひと夏の恋〜
「琴音おはよー。」
校門の手前で美穂と岡崎くんに会った。
仲良く手を繋いで登校する2人。
「よっす拓哉。秋だからお手手が寒そうだな。」
「おーっす。ベタベタが移るから近づくな。」
ふふふ。朝の爽やかな日差しの下に、にこやかな会話が飛びかっているわ。
「……あ、今日もやってる。」
美穂が校庭のトラックを見ながらそう呟いた。
その視線の先では亜季がトラックを駆け抜けていた。
最後の大会よりも集中した表情と気迫でだ。
「あいつもう県外の高校から幾つも特待生の誘いがあったんだろ?すげぇよな。」
「うん、でも亜季は東京の陸上の強い高校を一般入試で受けるって言ってたよ。」
亜季はもう自分が歩くべき道を決めたのだ。
私が未だ靴すら履けていないこの時期に。
「私はダーリンと同じ高校受けるー。」
「そうだな。あんま勉強しなくても行けるとこが良いよな。」
みんな少しずつだけど確かに歩むべき道を選んでいるのだ。
じゃあ、拓哉は?
「…………。」
そう聞こうと思ったけど、私は口を開かなかった。
亜季を見つめる拓哉の顔で、もう拓哉も自分が歩くべき道を決めているのだと分かったから。