Sommerliches Doreiek〜ひと夏の恋〜
その帰り道、私たちは何も喋らなかった。
拓哉が何を考えていたのかは分からないけれど、私は亜希に言われたことが気になってしまっていたのだ。
『鷲尾何か悩んでいるんじゃない?本当に教えてくれないのか聞いてみたら良いよ。』
そっか。
それで亜希は拓哉とかをカラオケに誘ってくれたのか。
お節介だって…………でもアリガト。
「大丈夫だよ泣かないで、ねぇあなたの笑顔が好き。」
鼻歌を歌う私に拓哉が振り返える。
「何?まだ歌い足りてねぇの?」
私はふと立ち止まる。
拓哉も不思議そうに足を止めて、私に向きなおす。
「いや、泣きそうな顔してるから励ましてあげようと思って。」
「…………。はぁ!?」
拓哉ビックリ。
そりゃそうか。我ながら分かりにく過ぎるとは思うしね。
「何か悩んでるんなら聞くよ?」
そう切り出してみたら拓哉は目をパチクリさせた。
「別に……大したことじゃないよ。」
そう言って拓哉はまた歩き始めた。
そっか……大したことじゃないんだ。
でも悩んではいるんだね?
きっといつもだったら「悩んでない」って言う拓哉がそう言ったってことは――
きっと凄く悩んでいるんだろう。そう思った。
「元気だしなよ少年。明日、詩帆のCD持ってきてあげるから。聞いて元気だしなよ。」
拓哉はまだ何に悩んでいるかは教えてくれない。
「んー。そうだな、聞いてみるよ。」
まわりから見たらそんなことで?って思われてしまうかもしれないけど。
こうして悩んでいることを教えてくれたことが、嬉しくてたまらなかったんだ。