Sommerliches Doreiek〜ひと夏の恋〜

振り向いた拓哉が嫌そうに顔をしかめる。

「また、何か用?白鳥。」




「えっ、優斗?拓哉と何を話してるんだろう。」

優斗は拓哉を手招きすると、校門の外側にもたれかかる。

私はその裏側で、そっと耳をすますのだ。

「で、何の用?」

面倒臭そうに尋ねる拓哉を、優斗がくすりと笑う。

「随分嫌われちゃったみたいだね。今日はテニスの助っ人なんじゃないの?」

ふぅ、とため息を吐いた拓哉。

いつもより低い声で言う。

「お前が全国に連れていくなら助っ人なんか必要ねぇだろ。オレは帰るよ。」

そう言い放って背を向けた拓哉に優斗が静かに言う。

「逃げるの?」

聞いている私がビクッと震えてしまいそうな、緊迫した雰囲気。

「あ?」

振り向きざまに優斗を睨み付ける拓哉。

優斗の顔にいつもの穏やかな笑顔は無かった。

「一度助っ人を引き受けたくせに放り出そうって言うんだろ?逃げるんだ鷲尾はさ。」

「てめぇっ!!」

優斗の胸ぐらを掴んだまま拓哉は優斗を校門に押しつける。

喧嘩になりそうで、私が止めに入ろうとすると、優斗の口から信じられない言葉が飛んできた。

「鷲尾はさ、そうやって琴音のことからも逃げてるんでしょ?」

文脈も何もかも関係なく出てきた自分の名前に、私はまた校門に隠れる。

「何で今、アイツが出てくるんだよ。」

更に凄む拓哉だったが、優斗は恐れなどなく、むしろ嘲笑っているかのようだ。

< 59 / 195 >

この作品をシェア

pagetop