Sommerliches Doreiek〜ひと夏の恋〜
振り向いた拓哉が嫌そうに顔をしかめる。
「また、何か用?白鳥。」
「えっ、優斗?拓哉と何を話してるんだろう。」
優斗は拓哉を手招きすると、校門の外側にもたれかかる。
私はその裏側で、そっと耳をすますのだ。
「で、何の用?」
面倒臭そうに尋ねる拓哉を、優斗がくすりと笑う。
「随分嫌われちゃったみたいだね。今日はテニスの助っ人なんじゃないの?」
ふぅ、とため息を吐いた拓哉。
いつもより低い声で言う。
「お前が全国に連れていくなら助っ人なんか必要ねぇだろ。オレは帰るよ。」
そう言い放って背を向けた拓哉に優斗が静かに言う。
「逃げるの?」
聞いている私がビクッと震えてしまいそうな、緊迫した雰囲気。
「あ?」
振り向きざまに優斗を睨み付ける拓哉。
優斗の顔にいつもの穏やかな笑顔は無かった。
「一度助っ人を引き受けたくせに放り出そうって言うんだろ?逃げるんだ鷲尾はさ。」
「てめぇっ!!」
優斗の胸ぐらを掴んだまま拓哉は優斗を校門に押しつける。
喧嘩になりそうで、私が止めに入ろうとすると、優斗の口から信じられない言葉が飛んできた。
「鷲尾はさ、そうやって琴音のことからも逃げてるんでしょ?」
文脈も何もかも関係なく出てきた自分の名前に、私はまた校門に隠れる。
「何で今、アイツが出てくるんだよ。」
更に凄む拓哉だったが、優斗は恐れなどなく、むしろ嘲笑っているかのようだ。