雲間のレゾンデートル
 ヒールの無い履き慣れたローファーなのにぐらぐら揺れて安定しない。

 靴の中に入り込んでた雨水が一歩進むごとに溢れ出し、その感触が気持ち悪かった。
 
 どう頑張っても記憶の中にあるPVのような綺麗なキャットウォークと自分の歩きが重ならなくてあたしは歩くのを止めた。


 その間にも雨はあたしと足元のアスファルトを叩いてリズムを刻んでいる。

 ぱちぱちと肌を弾く水滴の感覚にやっと現実味を感じられた。


 脳内で流れっぱなしのうる覚えのPVを止めて左手にあるショップを眺めるとガラス越しに見えるのはずぶ濡れのあたし。

 ふんわりしたカールは水の重みに負けて垂れ下がり前髪もぺったりおでこに張り付いてる。

 どう見たって大人っぽくは見えない、どうしようもないほどちっぽけな小娘だ。
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