しずめの遭難日記
丁度その頃、車は高速の飯田IC を降り、阿南町へ向かう山間の道を走っていた。
 先ほどまで晴れていた空が嘘のように、辺りは深い霧に覆われていた。
「…そう、それは、『深見池』って場所の伝説なんだけどね。深見池にはたくさんの伝説があるの。でも、私がこれから話す事は実際にあった実話。ちょっと怖いけど…それでも聞いてみる?」
 私はわざと意地悪そうな笑みを作って女を挑発すると、女は少し怯えたような顔をしながら顔だけで頷いてみせた。
 私は知っているのだ。この女がいかに臆病で弱虫で泣き虫かと言う事を。
「今から行くお父さんの実家の近くにはね、『深見池』っていう名前の大きな池があるのよ…」
 私は語りだした。
 深見池には昔から多くの伝説がある。私は、その幾つかの伝説を祖母から聞いて知っていた。一番有名な所では、その昔、開墾するために池を埋め立てようとしたら、ある夜池の近くに美人の女が現れ、その女が村からふといなくなった後大雨が降り、畑が全部池になっていた。とかいろいろある。私は数ある話の中でも、とっておきの怖い話をしてやろうと思った。
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