しずめの遭難日記
まもなく到着です
「みぃたぁ~なぁ~」
「きゃー!」
突然の低い大きな声に、私は不覚にも叫び声を上げてしまった。
見れば、父が意地悪そうな笑顔を浮かべながらバックミラー越しにこちらを覗き込んでいる。
「もう!お父さん>人がせっかく話してるのに変な声出さないでよ!それに、この場合は『みたな』じゃなくて『うらめしや~』とかでしょ?もう、私の計画台無し>」
父のおかしな声のせいで、一気にギャグになってしまった事に抗議の声を上げると、私はまったく動じてない様子の女をキッと睨み付けた。女は笑うわけでもなく、ただ、平然と目の前の景色を見ている。まったく気に入らない。せっかく怖がらせてやろうと思ったのに!
私がそんな事を思いながら唇を噛んでると、不意に父が車を止めた。
どうしたのかと様子を見ていると、父があの女の目の前に手をかざして振る。
「おい?神楽?かぐらぁ?…………目を開けたまま気絶するなよぉ~」
………計画成功。
女は、とうとう祖母の家に辿り着くまで目を覚ます事はなかった。私は、心の中で、「おやぢ、ナイスサポート」と呟いたが、そんな父は女が目を覚ますまでずっと女の心配ばかりしていたので私は少し不機嫌になった。
「みんな、よぉきんさったねぇ」
祖母の家に着くと、玄関先まで迎えに来ていた祖母が、私達の乗った車を見つけて手を振ってくれた。
「私までお邪魔してしまって申し訳ありません。よろしくお願いします」