しずめの遭難日記
 父はそう言うと、コンパスと地図で位置を確かめ、退路を把握してから、先へと進んだ。
 目指す山の麓に着いた時には、日はほとんどなかったが、それでも雪明かりで視界は良好だったが、少し風が出てきたため、私達は少し苦労しながらテントを張った。。

 二月二十二日の日記はそこで締めくくられていた。
 野上は、日記を読むに連れて、新野一家の重大なミスに気がついていた。
 まず、雪山に登る場合、絶対と言って良い注意点が『登山当初の計画を無闇に変更しない事』が挙げられる。
 日記では、しずめの父、新野 鍛治が言っている通り、当初の予定では三日の登山だったので、食料はこの日記の書かれた次の日までしか用意されていない。これは、つまり新野一家の最高登山期間があと一日しかない事を意味している。勿論、非常食なども持ち合わせているだろうが、それにしても限界は見えている。更に、新野一家は、予定を大幅に変更して、当初予定していた場所よりかなり離れた場所まで登山をしている。まぁ、一日くらいならなんとかなるという鍛治氏の思惑もあったのだろうが、一流の登山家としては、これは重大なミスだ。
 しかし、いくら重大なミスを犯したとはいえ、新野 鍛治は経験豊富な登山家だ。新野一家が、ただこれだけの理由で行方知らずになったとは考えにくい。野上は日記の次のページをめくった…。
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